その18(10話)171【あの世~おまえさまの場合】 おまえさまが風呂上りに脳溢血で寂滅すると── 「あんた、なに教?」 目の前にキリストがいた。 「えっ、仏教ですけど……」 「くっそー、また負けたあ」 「よっしゃあ」よこにいた釈迦がガッツポーズ。 「面目ありやせん」 キリストはうしろにいるヤハウェに謝ってから、 「じゃ、ちょっくら降臨して布教してきやす」 煙のように消えた。 --------------------------------------------------- 172 【あの世~健吉の場合】 お役所をめでたく定年退職した石田健吉さんが、 散歩中にいつのまにか幽明界(さかい)を異(こと)にすると── 雨が下から降り、ノラ犬がニャンと鳴き、自転車が空を飛び、 木々がジョギングし、人々が全裸で逆立ちしていた。 が、平然と歩き続けた。 疑問を持たない習慣が骨の髄まで染み込んでいたから。 --------------------------------------------------- 173 【あの世~だれかさんの場合】 とにかく逝くと── 「休憩おわり」 足かせがはめられた。 --------------------------------------------------- 174 【ふたりをすくえ】 「わああ、えらいこっちゃえらいこっちゃあ」 「おい、どうしたんだよ」 「こ、殺されるう」 「え、いったいだれに?」 「作者にだよお」 「はぁ? なんで?」 「このおはなしにオチがつけられそうにないんで、 書き直そうとしてるんだよ」 「え。ってことは──」 「おはなしとともに登場人物も消されちゃうんだよお」 「なにぃ、うそだろう!」 「うそじゃないよお」 「ここまで書いといてか?」 「そうだよ。きみもはやいとこ逃げたほうがいいよ。じゃあ」 「あ、待てよ、おい。おーい……」 「い、痛いなあ。うでが抜けちゃうだろ、放せよお」 「ま、待てったら。いったいどこに逃げんだよ」 「どこでもいいからとにかく作者から遠ざかるんだよ。ほら放せって」 「なあ、そうあわてるなって。作者もそれほどバカじゃないよ。 こうしているあいだにも、きっとなにか考えてるよ」 「そんなわけないだろ、あのとんまが。いいから手ぇ放せよお、放せったらあ。 うううううう、うわあああああ」 「わっわっ、こら、あばれるなって。まあ、おちつけ」 「あ、オチついた!」 --------------------------------------------------- 175 【来世~大衆の場合】 大衆が株価の上げ下げに一喜一憂しているさなかに、 ことごとく心臓麻痺で頓死すると── 「へい、いらっしゃい! 安いよ安いよ~」 長ネギになって八百屋の棚に積まれていた。 え、後退したじゃないかって? いえいえ、これでも進歩しているのだ。 ‘十把ひとからげ’が三把ひとからげになったのだから。 --------------------------------------------------- 176 【ニッポン人の定義14】 けなしている対象に依存している人種。 例:政府、勤務先、配偶者など。 --------------------------------------------------- 177 【超能力】 聡子は占い師をやっている。 最近、失恋した。 (自分の運勢すら占えないなんて……) 電話が鳴った。 「はい、アザミ聡子でございます」 「あ、もすもす。おらだ」 「あ、かあちゃんけ」 「おめえ、いづまでも落ち込んでんじゃねえぞ」 「え?」 「米と野菜おぐっだからよ。それ食って元気だせえ」 「かあちゃん、なんでわたすが落ち込んでんの分がんだ?」 「なに言ってんだ。おら、おめえの母親だんべ。 それぐれえ分がんねえでどうすんだ」 --------------------------------------------------- 178 【あの世~社員たちの場合】 社員たちが永続勤務者慰労会の会場にて ガス中毒で意識不明になり、気が付くと── おなじ場所にいた。 なにも変わらなかった。 あの世イコールこの世だった。 もともとゾンビだったから。 --------------------------------------------------- 179 【ホコリ高き宇宙】 我々からみて、 とてつもなくゆっくり動く、 とてつもなく大きなおとこが、 てのひらで座布団をたたいて、 高く舞ったホコリを ふぅーっと吹いたら、 星々が衝突して、 宇宙が滅亡した。 --------------------------------------------------- 180 【来世~沢庵和尚の場合】 死の床で悟りを開いた沢庵和尚が、 「所詮この世は仮の……」 と、言葉半ばに寂すと── ヤドカリになっていた。 ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|